INTERVIEW

千葉県佐倉市にて2017年より始まった野外フェス「くさのねフェス」
くさのねフェスの2日目をもらい受け2024年より始まった「くさのねアイドルフェス」
両フェスの実行委員長である白幡延幸と白井將人の対談を実施

「くさのねフェス」と「くさのねアイドルフェス」の実行委員長、「Sound Stream sakura店長」と「Halo at 四畳半」
様々な角度からこの全く毛色の違う2日間の概要を読み解く

──まず、白井さんとシラハタさんとの出会いについて教えてください。

白井 將人(くさのねアイドルフェスティバル実行委員長):僕が高校生の時に、コピバンでSound Stream sakuraに出た時ですね。渡井翔汰(Halo at 四畳半)とは同級生で仲が良くて、高校1年生の終わり頃には一緒にバンドをやりたいと話していたんです。そこから当時入部していたテニス部を辞めて、高校2年生の時に軽音部に入ってバンドを組んで、初ライブをした時がシラハタさんとの出会いです。

シラハタ ノブユキ(くさのねフェスティバル実行委員長/Sound Stream Sakura店長):そこからめちゃくちゃライブを観に来てたよね。

白井:そうですね。週2くらいの頻度で、休みの日には必ず行ってました。高2の時に卒業ライブの実行委員になった時に、シラハタさんとより話すようになり、メンバーチェンジなどを繰り返しながらHalo at 四畳半をやるようになってからは、バンドとライブハウス店長としてより関係が深まっていきました。

シラハタ:白井はその時から気さくだよね。ライブを楽しそうに観ていたし、純粋にライブが好きで、何かを吸収しようという気持ちでライブハウスに来ているんだなと思ってたよ。2011年の東北地方太平洋沖地震が起きた年に、白井の代の卒業ライブがあったじゃん?振り返ると、その時のことをすごく思い出すなぁ。

白井:電気が止まって照明も使えないかもしれない、という状況の中でギリギリ開催できた卒業ライブでしたね。でも、お客さんもたくさん来てくれて、僕らのライブが盛り上がりすぎた結果、前柵が壊れるという(笑)

シラハタ:そうそう、あったね(笑) いつ地震が起こるか分からなかったから、全ての扉を開けて、いつでも避難できる状態でほぼ生音で演奏していたもんね。

白井:それでもやりたかったんですよね。実は僕は、高校2年生の終わりまでは薬剤師になりたくて、薬学部に入るための勉強を入学当時からしていたんですよ。でも、ライブをして以降その楽しさにのめり込んじゃって、音楽の仕事をしたいと強く思うようになって、高2の春休みに文系に転向したんですよ。それくらい、自分の人生を狂わされましたね。でも、当時のシラハタさんの印象は、変な人だな、でした(笑) 今でも若いバンドの子から「シラハタさんにこう言われたんですけど……」って相談されて「それはこういう意図でこういうことを言ったんだと思うよ」って通訳しますもん。

シラハタ:そうなの?届いてないのか!(笑)

白井:表現が抽象的な故に、届いてないです(笑) でも、同じ目線に立ってそれぞれのバンドと向き合ってくれる、こんなにも愛がある店長はいないなと思います。千葉でも田舎の方のライブハウスなのにほぼ毎日営業していて、長すぎる打ち上げにも果てまで付き合ってくれる。地元の演者からしたら親のような存在だと思います。そんなシラハタさんがいるライブハウスで育ってきたからこそ、音楽は人で成り立っているんだなと心底思いますし、ライブハウスや人との関係値があるからこそできるライブがあるんだと学びました。そういう気持ちの通った佐倉出身バンドが多いのは、そういうシラハタさんの人間性や愛に感化されて育っているからこそだと思います。

──そうした堅実で真摯な想いをバンドに預けてきたシラハタさんが、今年7回目の開催となる「くさのねフェスティバル」をスタートさせた経緯を教えてください。

シラハタ:2017年5月に、佐倉市の役所の方から「佐倉草ぶえの丘で音楽フェスを開催しようと思うんだけど、手伝ってくれないか?」という電話が入ったのが最初ですね。そこから話が進んでいき、2017年9月3日に2ステージ制で行う形式で初回が開催されたんだよね。その時にもトリでHalo at 四畳半に出演してもらったね。しかも、当時は佐倉市主催イベントだったからチケット代は取らず、草ぶえの丘の入園料410円を払えばHalo at 四畳半のライブが観れたというね(笑)

白井:あれ、びっくりですよね。異常ですもん(笑)

シラハタ:後に担当者の方に聞いたら、延べ1500人来場してくれたらしいよ。その時はシャトルバスもなかったし、地元の方々も自家用車やコミュニティバスを使って来てくれたような状況だったにも関わらず、それだけの人があの場所に来てくれたんだという実績ができた。それを受けて、市の担当者の方から、音楽は自由だからこそ、行政がやるよりも民間でアイデアを出し合って面白くしていきたいという話を頂いて、有志での実行委員会を設立した上で、地元でそれぞれの仕事をしている方々と一緒にやっていこうという方向性になって、2018年に2回目以降を開催をする、という流れですね。2020年はコロナの影響で開催発表もできない状態で、2021年も通例通りの9月開催には至れなかったんだけど、同年11月に組数を分散させて初めて2日間開催として行ったんだよね。2022年もお酒の提供ができないなどの制限もあった中でも2日間開催で成功したものの、その翌年には前日の台風の影響で中止になるというね。

白井:あぁ……。

シラハタ:あの時は絶望したもんな……。でも、その落ち込んだ気持ちを取り返すように2024年からまたスタートさせて、アイドルフェスとの2日間開催で挑んだんだよね。そして、今年2025年もその形態では2度目の挑戦というね。

白井:元々、シラハタさんの中でフェスをやりたいという野望があったというわけではないんですか?

シラハタ:実は「くさのねフェスティバル」を開催する前に一度、佐倉城址公園で小さい野外イベントをしたことはあるんだよ。でも、一つのライブハウスだけでできる規模感を考えると難しいよなとは思ってた。でも、さっき話したような経緯でフェス開催の話をもらって、初年度に1500人の来場者がいたという事実もあったし、何より、初年度に出てくれたバンドの映像を見返したら、みんな楽しそうで、良い顔してたんだよ。それを見て、ああ、これはやる必要があるイベントなんだなとその時に思ったんだよね。それが、続けようと思ったきっかけだったなぁ。

白井:初年度は、トリを務めた僕らの出番中、最後の音で停電しましたよね。

シラハタ:ははは!そうそう。最後のキメで停電っていう、シナリオか!?ってくらい綺麗な停電だったよね。その後、ブレーカーの位置が分からず10分くらい復旧できなくてね。あれも思い出深いなぁ。その初年度から、白井は実行委員会に顔を出してくれていたもんね。佐倉の街の人にHalo at 四畳半を知ってもらえるいいきっかけになったと思っているよ。白井はずっと、やるからには主催者意識でいたいって言ってくれていたもんね。

白井:そうですね。バンドとして出されてもらっているけれど、僕は主催の人の顔が見えるフェスが好きですしね。シラハタさんがいて、佐倉市役所の方がいて、実行委員である町の方々がいて、草ぶえの丘の運営の方々がいる。そのことをしっかり理解してやった方がライブにも気持ちが入るので。だって、初年度から僕らにトリを任せてくれるフェスなんてないですもん。それに、実行委員会側の方々も、当初は音楽が好きだという人ってほとんどいなかったと思うんですよ。その人たちに対しても、こういうバンドが参加して、こういう気持ちでやっているんだと知って欲しかったし、逆にどういう想いで「くさのねフェスティバル」を作っているのかを相互間で理解し合うことが大事だと思ったので、その意識は常にありました。

シラハタ:イベントも大きくなると、正直誰が何をやっているのか分からなくなるもんね。でも、「くさのねフェスティバル」って、担当者同士が知り合いだとは限らないし、年に一度の開催なんだけど、毎年準備が始まるとしっかり協力してくれる人がいる。それってすごいことだなと思うんだよね。陰ながらではなく、顔を合わせて手伝ってくれる人が年々増えていくということは、「くさのねフェスティバル」が求められるものになってきている証明なのかなとも思うよ。もちろん楽では決してないけど、バンドから生まれるストーリーも含めて、続けているからこそ得られるものだなと改めて思うね。

──人と人との関係性や、地元に根付いたフェスになっているという実感が生まれ始めてきたということなんですね。先ほども少し話題に上がりましたが、昨年2024年開催時から「くさのねアイドルフェスティバル」を同時開催しています。白井さんは実行委員長として、なぜアイドルに特化したフェスを開催しようと思ったんですか?

白井:台風で中止になった2023年の「くさのねフェスティバル」の打ち上げで、話が出たことは今でも鮮明に覚えています。その開催時、本来であれば、僕がプロデュースしているアイドル・may in filmが、念願のバンドセットで出演する予定だったんです。自分がプロデュースしたアイドルと現役でやっているバンドマンと共に、絶対バンドに負けないライブができる!と自信を持って言える状態だっただけに、シラハタさんから開催中止の報を受けた時は本当に悔しかったし、許せない!って思っていたんです。その気持ちもあって、冨塚(toybee)とその日出演予定だったバンドに電話して、スケジュールが空いていたSound Stream sakuraで急遽イベントを組んだりもしたし。でも、翌日には台風一過で快晴だったんですよね?

シラハタ:そうなんだよねぇ。

白井:そこで、単日開催のリスクをひしと感じたんです。2日目があったらできたなぁとその時思いつつ、そもそも地元密着フェスだからこそ規模を簡単に大きくすることも難しいし、シラハタさんも運営周りで忙しくしているのを知っていたから、簡単に2日開催にしたらどうですか?とは言えなかった。そこで、アイドル業界に入って3年ほど経って、フェスの知見もある相棒もいる自分になら、2日目にアイドルフェスも開催できるなと思ったんです。第二の地元だと思っている佐倉にたくさんの人に足を運んでもらえるきっかけになるし、野外でアイドルフェスが開催できるワクワク感もあるし、リスク分散や設営費の節減にもなる。それってメリットしかない!と思って、シラハタさんに伝えたのが始まりですね。

──でも、やはりアイドルフェス開催の難しさはあったのではないでしょうか。

白井:ありましたね。昨年は逆に予想以上の来場があったことで、シャトルバスの不足や運営関係のハプニングが絶えなかったです。リスクヘッジしたつもりが常に追われ続けた状態になったし、反省点がたくさんあったんですけど、お客さんからの評判がめちゃくちゃ良かったんですよ。去年出演してくれたアイドルさんも、酷暑の中暑い思いをさせてしまったのに、「くさのねフェステティバル」は特別なフェスだからと今年も引き続き出演してくれて、そういう嬉しい声があるからこそ、今年も開催するに至ったんですよね。ひとえにそれらは、7年やってきた「くさのねフェスティバル」の継続と、試行錯誤の上でのホスピタリティがあってこそだと思っているので、感謝しかないですね。

──シラハタさんは、昨年初めて「くさのねアイドルフェスティバル」を体感していかがでしたか?

シラハタ:いやぁ、本当にお客さんが楽しそうでしたね。楽しみ方にも色々種類があって、心のうちにしまいこむ楽しさもあると思うんだよ。でも、アイドルのお客さんはその感情が外側に溢れちゃっているような感じだった。それはすごくカルチャーショックでもあったな。直向きに応援しよう、一歩でも近づこう、アイドルと一緒に楽しもうという気持ちと姿に、こちらも楽しませてもらった印象が強いなぁ。

白井:市役所の方も同じことを仰ってました。正直、バンドをずっと観てきた人や初めてアイドルのライブを観る人に、アイドル文化を受け入れてもらえるのかな?という不安もあったんですよ。でも、アイドルってめちゃくちゃライブをやっているし、生半可な気持ちの奴よりもアイドルの方がよっぽど根性あるし良いライブをすると思っているんです。その良さが伝わってくれているのであれば、嬉しいですね。

シラハタ:煌びやかさや可愛さを届けるのがアイドルのライブなんだとずっと思っていたんだよ。その考え方を、180度変えさせてもらったね。魂が揺さぶられたし、アイドルというジャンルの表現者が、揃いの衣装を着て、ステージに立つだけで伝わるパワーに驚いたもんね。ロックバンドならではの振りの大きさやパフォーマンスで楽しませる方法ももちろんあるけど、踊って、歌って、熱を届けようとする彼女たちの姿を見て、心底面白いなと思った。

白井:バンドの音楽での感動とは違えど、感動の種類はとても近いと思うんです。泥臭く、直向きに頑張っているアイドルがたくさん出るので、2日間分かれてはいますけど、本質的には同じだと思っています。

シラハタ:ビジュアルだけ見れば泥臭さなんて全くないけど、その裏側にある負の感情や抱えているものをエンターテインメントとして表現していることの強さがあるよね。

白井:バンドとアイドルの大きな違いのひとつに、作曲者が全く別にいるということがあると思うんです。アイドルは、受け取った曲の良さを自分なりに解釈して、聴いてくれる人に伝えようとするパワーがあるんです。歌詞に自分を投影するタイプのアイドルもいれば、理解はできずとも曲の魅力を最大限に届けようとする人もいる。そういった、表現に対する想いの強さは、もしかしたらバンドよりも強いんじゃないかな?とさえ思います。

シラハタ:いやぁ、従順で実直だね。メンバーを通じて、曲の可能性が広がるってことだもんね。

白井:本当にそうですね。俺の思いを受け取ってくれ!という初日出演のバンドと、人から預かったものを自分たちの力で届けます!という2日目出演のアイドル。ベクトルは違えど、パワーの大きさに関しては同じだと思います。

──今回も、昨年と同様【魂を揺さぶるライブ】というコンセプトを設けていますが、そういった想いがあるからこそ冠したテーマなんだなと思いました。

白井:アイドルというフォーマットって、キラキラしたものを届ける人たちだというのがパブリック・イメージだと思うのです。でも実は、ライブをたくさんやってライブに向き合うアイドルを見て感動することがめちゃくちゃ多いんですよ。それは、僕にとっては、例えば高校生の時に初めて観たバンドに対して抱いた感動や衝撃と同じなんです。そう言った、ライブに特化して活動しているアイドルが一堂に会するイベントってそんなに多く存在していないんですよ。僕は佐倉という場所で、「くさのねフェスティバル」と共に開催するのであれば、そういうアイドルを集結させた熱い内容にしたいと思ったです。それを言語化すると、「魂を揺さぶる」だったんです。それは、お涙頂戴的な意味合いなわけではなく、単純に心が動くことが前提なんです。その動機には、かっこいいもあれば、楽しかったもあると思うし、世界観に突き動かされたり、熱い想いに感化されるというのもあると思います。それらを総称した時に浮かんだのが、【魂を揺さぶる】というワードでした。

シラハタ:なるほどね。

白井:もちろん、可愛いから見たい!という理由も正義だと思うんです。でも、「くさのねアイドルフェスティバル」に関しては、ライブを観たいから行く!というお客さんが圧倒的に多いんですよね。それに、推しアイドルだけではなく、他のアイドルを観て楽しんでいる人が多かったし、そういう相互作用も期待しています。そういった意味でも、アイドルライブを観ることへのハードルを下げたいんですよね。

──ここまでシラハタさんを筆頭に、たくさんの人の想いと共に培ってきた「くさのねフェスティバル」の想いもしっかり汲んだ上でのテーマですね。

白井:これまでHalo at 四畳半として数多くのフェスに出演させてもらった上で、「くさのねフェスティバル」って、自分はフェスを盛り上げる脇役なのではなく、主役なんだと思わせてくれるフェスだと思うんです。そう思わせてくれる機会って、実は意外と少ないんですよね。だからこそ僕は、「くさのねアイドルフェスティバル」を愛だけで成立させられるフェスにしたいんです。演者とお客さんの間で愛を育んで、その愛を感じる関係を築いているよう人たちが開催するフェスが好きなので、「くさのねアイドルフェスティバル」もそう在りたいなと思います。

──では最後に、今年開催の「くさのねフェスティバル」に向けた想いをお聞かせください。

シラハタ:今回特に大事にしたのは、一度でも佐倉に来たことがある人で構成したいなと思って組んでいきました。先ほどの白井の話の通りでもあるんだけど、当事者意識を持ってライブをしてくれるバンドを中心に呼んでいます。Sound Stream sakuraでも新参者のバンドやコピーバンドもラインナップしているんだけど、自分が佐倉のステージに立っている理由を、しっかりとライブで表現してくれるだろうという期待を掛けている人にしか声を掛けてないんだよね。だから、年齢層も幅広いんだけど、伝えているメッセージはみんな同じだと思ってる。お客さんにも、期待を持ってワクワクした状態でバスに乗って草ぶえの丘に来てほしいし、ライブが始まったらその気持ちが最高潮になって、初めて触れる音楽とも出会ってもらいながら、あの場に流れる素敵な空気と時間に触れてもらいたいですね。

(Text:峯岸利惠)